“色による情報格差”のない社会のために――CUDO/ナナオインタビュー

誰もが使いやすい色彩デザインを実現する「カラーユニバーサルデザイン」という概念、そしてまた、色弱者の見え方をシミュレートできる世界初のディスプレイも日本で誕生しました。この2つがなぜ世界に先駆けて日本で編み出されたのか、その背景と将来について話を聞きました。

» 2007年03月23日 00時00分 公開
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色覚シミュレーションモニター「FlexScan U」

色弱者の色の見え方をシミュレーション表示することで、カラーユニバーサルデザインを支援するEIZOの液晶モニター


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インフォメーション

「FlexScan Uシリーズ」 デモ展示情報

本記事で紹介した色覚シミュレーションモニター「ナナオのFlexScan Uシリーズ」は、下記の展示コーナーで実際に体験できる(※EIZOガレリア銀座と大阪は3/15〜4/6期間中 参考展示)。また、カラーデザインの展示会「COLOR SESSION(会期:2007年4月12日〜14日)」でも展示予定。


トピックス

【法人限定】FlexScan Uシリーズの製品モニターを募集中

ナナオでは、ユニバーサルデザインに関わる業務(企画、デザインなど)をされている方を対象に、「FlexScan U」シリーズを実際に使用できる『製品モニター』を募集中。1週間のご使用後、簡単なアンケートにお答えいただきます。


 さまざまな色を使ったデザインが街にあふれていますが、色の感じ方は人それぞれで差があり、特に遺伝子のタイプによっては一般的な見え方とかなり異なった感じ方をする色弱と呼ばれる人たちが日本だけでも300万人以上います。一般色覚者でも色弱者でも使いやすい色彩デザイン「カラーユニバーサルデザイン」の考え方を広めようと活動している、特定非営利活動法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)の武者廣平理事長と田中陽介事務局長、また色弱者の見え方をシミュレートする「色覚シミュレーション」機能を世界で初めて備えたFlexScan Uシリーズを開発したナナオ ソフトウェア技術開発部アプリケーション開発課の米光潤郎開発マネージャーにお話を伺いました。

日本で生まれた「カラーユニバーサルデザイン」

ITmedia はじめにCUDO(クドー)の成り立ちについて教えてください。

CUDO認定マーク カラーユニバーサルデザインに配慮して作られていると、CUDOが認定した製品や施設に対してのみ表示できるマーク。ここで使われている赤・青・黄・緑の4色は色弱者にも見分けやすいよう特別に配慮された色調で、マーク自身がカラーユニバーサルデザインの見本になっている

田中氏 メンバーの1人で自身も色弱者である岡部正隆(現東京慈恵会医科大学 DNA医学研究所室長)が国立遺伝学研究所の研究員だったとき、色弱の研究者にも分かりやすいように緑と赤ではなく緑とマゼンタを使って蛍光顕微鏡の写真を提示してほしい、と学会などで主張したことが1つの発端になっています。人間の遺伝子の研究が進むにつれて、遺伝子の多様性が、色覚に限らず個人の特長や個性を作り、さまざまな人たちで構成される社会が成り立っていることが分かってきました。しかしそこで、赤と緑が同じように見えてしまうという都合の悪い(?)遺伝子は、片っ端から遺伝子治療して統一規格の人間を作ろうとか、都合の悪い個性を持つ人たちが個人の努力で困難を克服すればいい、ということではなく、いくらでも調整可能な社会側、この場合は情報発信側が対応すべきではないかという主張です。

武者氏 CUDOがNPOになる前、2001年頃から「色覚バリアフリー」という活動はしていました。岡部と伊藤啓(現東京大学分子細胞生物学研究所 助教授)の2人がロジックを作り上げ、研究発表しながら、色覚に対する障壁を取り除こうと活動してきました。その活動が、色覚に異常なり障害のある人たちだけでなく、例えば視力の落ちた人や老人性白内障の人にとっても理解しやすいものになるのだと分かってきました。そこで、バリアフリーと呼ぶよりは、ユニバーサルデザインという呼び方をして、もっと広くみんなに知ってもらいたいということから2004年10月にNPO化したわけです。検証まで含めたCUDOのような活動をしている団体は海外では聞いたことがありません。

武者廣平氏 NPOカラーユニバーサルデザイン機構 理事長の武者廣平氏

ITmedia 「カラーユニバーサルデザイン」というのはCUDOが作った言葉と聞いて驚きました。

武者氏 そのとおり、CUDOが作った言葉です。イギリス・ケンブリッジ大学のモロン博士が作り上げた理論に基づくコンピューターによるシミュレーションを利用することで、色弱者の見ている色世界・色空間が分かるようになってきたのです。

ITmedia 色弱者は国内に300万人以上、疾患によるものを含めれば500万人以上と大勢おられます。また世界では2億人も色弱者がいるそうですが、なぜこれまで社会問題化しなかったのでしょうか。

田中氏 私は色弱者ですが当事者にしてみれば一応の社会的動きもあるにはありました。ただ男性の5%で女性は0.2%と非常に少ない、つまり人口の2.5%でしかなく97.5%の人には関係ないという考え方はできますよね。眼科の医師で色覚を専門にしている人たちも(遺伝子のタイプによるものなので)治療ということはできないし、警察官とかパイロットといった一部の職業に就けないことを除けば支障なく生活していける、という考え方だったわけです。

武者氏 社会の構図としてはマジョリティーとマイノリティーというのが常に存在していて、やはり数が少ないマイノリティーのほうが何らかの差別を受けやすいわけです。実際に運動能力も学習能力も問題はない、ただし色だけで視覚情報を作られると判読しにくくて苦手ということは認めざるをえない。しかしそれだけで「色覚異常/色覚障害」などと呼ばれることは認めがたく抵抗や反発がありますが、逆にそのために潜在化していったという傾向もあります。最近は児童に対する色覚検査は親御さんが依頼しなければ行わなくなりましたが、特性のある子どもたちが早い時点で色弱を自覚する機会がなくなりつつあるとも考えています。しかし元来同じ社会にいる人間として、異常や障害ではなく血液型と同じように色覚タイプの異なる人がいることをマジョリティー側が認めて理解することが重要と感じています。それが多様性を認めるという意味でのユニバーサルデザインなのです。CUDOのポジションは、ユニバーサルデザイン思想のひとつとして、カラーユニバーサルデザインを十分に理解してもらい、みんなが同じ色覚で見ている訳ではないことを広く知ってもらうことです。

カラーユニバーサルデザインの現状

ITmedia カラーユニバーサルデザインが最近になってより重要度が高まっているそうですが、実例を挙げていただけますか。

田中氏 私が学生だった頃は教科書は白黒で、社会科の地図帳のようなものだけ色の問題があったのですが、最近の教科書はフルカラーになっています。特に低学年向けの教科書では、情報を色で区別して表示するようなところがあり、自分はいま子どもじゃなくてよかったとさえ思います。パソコンの普及とともに世の中が変わってきて、色にコストがかからなくなったのだろうと痛感します。駅の券売機にしても、いつのまにかフルカラーになっていて、そういうものを見ると、もしかしたらそれぞれの色は単なる飾りではなく何か意味があるのかもしれない、と不安を感じてしまうことがあります。

ITmedia 教育現場ではカラーユニバーサルデザインに対する取り組みはなされているのでしょうか?

田中氏 文科省から1989年(平成元年)と2003年(平成15年)に、色弱の子どもがいるということを念頭に授業をしなければいけないという指導の手引きが出ています。どの程度徹底されているのかという問題はありますが、やはり気をつけるべきことだという認識は以前よりは進んだと思います。

武者氏 教科書会社も危機感を持っていて、使われている図版や文字の色についてどうでしょう、とCUDOに対してチェックを求めてくるようになりました。

ITmedia カラーユニバーサルデザインの現状について、武者さんはご自身でデザインの会社もお持ちですが、デザインの現場の認識はいかがですか?

武者氏 事例をご紹介しますと、ボルトやナットを締めるトルクレンチという工具がありますが、そのトップメーカーの東日製作所でのデジタルトルクレンチデザイン開発があります。当初デジタル表示部は赤い発光表示が暗いスモーク板をとおして見えるというものでしたが、これでは色弱者、特にP型の人は黒の中に焦げ茶の表示が現れるような感じでほとんど見えません。それで我々は発行色を赤ではなくてオレンジ色に変えるようアドバイスしたり、作業環境により発光表示だけでなく隣に設けた液晶表示部によるダブル表示も選択可能としたり、色覚に頼らないものづくりを心がけています。

田中陽介氏 NPOカラーユニバーサルデザイン機構 事務局長の田中陽介氏。ご自身も色弱者

ITmedia パソコン関連の事例はいかがでしょう。

田中氏 ホームページに関してカラーユニバーサルデザインの話をいただくことはもちろんあります。そのほかの事例としては、携帯電話による渋滞情報提供サービスで、道路の色が緑で、渋滞になると赤く変わるというものがあったのですが、色弱者のユーザーからサービス会社にクレームが入ったということを聞きました。そこでCUDOがテストに協力して色弱者にも分かりやすい色の組み合わせに変更しました。

ITmedia そのようなときはどのようなテストを行っているのですか?

武者氏 色弱者のうち強度のD型/P型であれば、シミュレーションソフトでかなり表現できますが、弱度のD型/P型の場合は個人差が非常に大きくて現状ではシミュレートはできないのです。そのため、弱度の人に実際に目で見ていただくしかありませんし、機械化は無理なので検証評価はD型/P型の強度/弱度の4人に見てもらうことで行っています。また検証する際には事前に評価すべき内容を整理して優先度を付けてもらい、全体の中でどの部分が必要なのかを見るようにしています。

ITmedia 今後の展望について教えてください。

田中氏 いまはメーカーなどから持ち込まれる製品の検証作業など受け身の対応で追われてしまっていますが、これでは効率が悪くてどうしようもありません。検証は別として、我々が毎回指導しなくてもすむよう、色彩設計のプロフェッショナルに対してカラーユニバーサルデザインの普及啓発活動を行い、「こんなことは知っていてあたりまえですよ」という状況に持って行きたいと考えています。これには長い時間がかかるでしょうが、カラーユニバーサルデザインエキスパートというか伝道師を増やしていかなければと考えています。

武者氏 私は一般色覚者ですが、後輩でもある岡部君から話を聞くまでは色覚バリアフリーに関する知識はほとんどありませんでした。しかしそれから彼らと一緒に勉強させてもらって、これは社会にとってとても大切なことだと気づき、これまであまりにも知識がなかったことを反省しながら、デザイナーとして一般色覚者にいかにそれを伝えていくかというノウハウを蓄積してきました。今後はそうしたノウハウを含めカラーユニバーサルデザインをもっと伝えていきたいと思います。視覚情報としてそれがカラーユニバーサルデザインかどうかはまず作り手側の一般色覚者が判断し予見する必要があるのです。ですから逆にチェックの場合にはD型/P型の強度/弱度の4人に加えてカラーユニバーサルデザインを理解している一般色覚者も必要になります。将来は色彩に関する資格である「カラーコーディネーター」教育の中にそういう具体的なプロセスが入ればありがたいと思います。

ナナオだからこそできた世界初

ITmedia 色覚シミュレーションモニターは世界初の製品ということですが、開発に至った背景を教えてください。

米光氏 石川県の工業試験場に前川さんという研究員がいらっしゃるのですが、このかたは以前から福祉機器やバリアフリーを研究されていまして、色覚バリアフリーであるとか、モロン博士の研究を基にした色弱者シミュレーションソフトを作成されたりしておられました。その研究の一環としてモロン教授の理論をディスプレイで実現できないかと、2003年の秋頃に持ちかけられたのがきっかけです。

「FlexScan S2411W-U」 色覚シミュレーションモニター第2弾となる「FlexScan S2411W-U」

 おそらく一般的なモニターメーカーでしたらできないという判断に至ったと思います。しかしナナオでは、以前からモニターをコントロールするチップを自社開発していまして、そこには色彩関係の回路も含まれています。そのような技術やノウハウの蓄積があったことから、これはいまある回路で実現できるだろうということが即座に判断できました。ただ、最終的に製品として出荷するまでには、このような製品を出して売れるのかという判断もあるわけですが、ナナオは以前からさまざまな環境適合性基準をクリアするとともに、EIZO Eco Productsのような、リデュース性・リサイクル性・省エネといったプラスアルファの基準を自らに課す企業文化とか、5年間保証を他社に先駆けて行うといった、親社会、親ユーザーへの志向がありました。新たな価値を社会に提案する企業文化が下地となって製品化しようということになったわけです。

ITmedia 技術的には一から開発するのではなく、ナナオが持っている独自のコントロールチップ上で実現できたわけですか。

米光氏 はい。また、技術的な難易度以上に精度が重要なポイントです。作ってはみたが実際の色弱者の見え方とはまったく違うということでは意味がありませんので、その部分はCUDOにご協力いただき、被験者を募って精度比較の実験を行った上で製品化しました。

ITmedia この色覚シミュレーション機能の性能はいかがでしょうか?

田中氏 うまく機能しているかどうか複数の色覚タイプのかたにシミュレーション前後の画像を見てもらい、同じに見えるか別の色に見えるかチェックしました。再現性は高いと考えています。ソフトウェアによるシミュレーションは出力するディスプレイの性能に依存してしまうので、うまくいかない場合がありました。FlexScan Uシリーズのようにハードウェアの機能として実装されているとハードウェアが固定されるわけでシミュレーションの質は高いと言えます。

武者氏 ハードウェアの機能によって瞬時に切り替えられるわけで、特に色弱者の見え方を動画で見られるというのは、一般色覚者にはかなり衝撃的です。静止画を一枚一枚めくって見るのに比べて非常に大きなインパクトがあると思います。

一般色覚/D型色覚比較サンプル動画

FlexScan Uシリーズでは色覚シミュレーション機能をハードウェアで実現したことで、色弱者の見え方を動画でもリアルタイムに確認できるようになった。ここに掲載した動画ファイルは、ナナオのデモンストレーション用動画を色覚シミュレーション機能で変換した上で、比較しやすいように、オリジナル(一般色覚)とD型色覚者の見え方が左右に表示されるよう編集したダイジェスト版。なお、このサンプル動画のフルバージョンはYouTubeで公開されている。


ITmedia ナナオは世界市場へこの製品を出荷しているわけですが、それによる波及効果などについてはどうお考えでしょうか。

田中氏 こうした製品を通じて、海外にカラーユニバーサルデザインの啓発ができれば非常にいいと思いますね。つい先日海外に行ったのですが、空港では色を使った表示が多く、私が見ても対応できないものがありました。このようなことをなくすためには、色弱者がいるということを知ってもらうことが必要で、FlexScan Uシリーズのようなディスプレイがあれば、「色弱者が見ると分からない」ということが一目で理解してもらえます。

米光潤郎氏 ナナオ ソフトウェア技術開発部 アプリケーション開発課 開発マネージャーの米光潤郎氏

ITmedia ナナオの今後の取り組みについて教えてください。

米光氏 ソフトウェアシミュレーションと比較して、ディスプレイの違いによるハードウェア依存の部分を打ち消すことはできていますが、経年変化まで相殺できるようには作られていないので、そうしたことまできっちりキャリブレーションできるような製品が必要だと考えています。将来的には色弱者が見分けにくい色をモニター上で検出できるような仕組みを作ったり、それを自動的に変換して見やすいものに変えたりということもハードウェアでできるようになればと思います。

 また、こうした製品はデザイナーに使っていただかなくてはいけないという思いがありますので、カラーマネージメントモニター「ColorEdge」というラインアップの一機能として搭載したいとも考えています。

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・応募締め切り:2007年4月5日(木)

※応募の詳細は、「はてなキーワードキャンペーン」概要ページにてご確認ください。


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提供:株式会社ナナオ
制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2007年4月6日